マルチサイズの使い分け
ここから先は、サイズを「なんとなく」で選ぶのをやめる場所だ。
初心者は手の強さでサイズを決める。「強いから大きく、弱いから小さく」。これは最も読まれやすい打ち方で、上級者の卓では一瞬で剥がされる。
君がここで身につけるのは逆の発想だ。サイズはレンジ全体の設計から逆算する。 1/3 を選ぶ理由、2/3 を選ぶ理由、オーバーベットを選ぶ理由——それぞれに固有の「狙い」がある。その狙いを言語化できる者だけが、卓の状況に合わせてサイズを動かせる。
サイズは「3つの問い」で決まる
ベットサイズを選ぶとき、君が自分に問うべきは手の強さではない。次の3つだ。
- ボードは乾いているか、濡れているか(相手のドローはどれだけあるか)
- ナッツ級の本数で自分は相手に勝っているか(ナッツ優位の有無)
- どのサイズが相手のレンジから最も搾り取るか(コール域の設計)
この3つの答えが「小さく高頻度」か「大きく分極化」かを決める。手札はそのレンジの中の1枚にすぎない。
1/3 ポット — 「広く・安く・高頻度」の道具
小サイズの本質は、相手の守備義務(MDF)を高く保つことだ。
ハーフポットより小さい 1/3 ベットでは、相手のMDFは pot/(pot+bet) = 1/(1+0.333) = 75%。つまり相手は手札の 4 分の 3 を降りられない。弱いペアやガットショットまで継続せざるを得ない。
| サイズ | 相手の必要勝率 | 相手のMDF | バリュー:ブラフ |
|---|---|---|---|
| 1/3 ポット | 20.0% | 75.0% | 4:1 |
| 1/2 ポット | 25.0% | 66.7% | 3:1 |
| 2/3 ポット | 28.6% | 60.0% | 約 5:2 |
1/3 が刺さるのは 乾いたレンジ優位ボードだ。A♠7♦2♣ のような面では、君のレンジに Ax とオーバーペアが詰まっていて、相手のドローはほぼ無い。プロテクションが要らないなら、薄く広く搾り取るのが最も効率的だ。
2/3 ポット — 「分極化」と「エクイティ拒否」
中〜大サイズの役割は、相手のドローに悪い価格を突きつけることだ。
2/3 ベットに対する相手の必要勝率は bet/(pot+2*bet) = 0.667/(1+1.333) = 28.6%。フラッシュドロー(約 9 アウト ≒ ターン1枚で約19%)はこの価格ではエクイティが足りず、降りるか不利なコールを強いられる。
J♥T♥9♣ のような濡れたボードでは、両者にストレート・OESD・フラッシュドローが満載だ。ここで 1/3 を打つと、相手はドローを好価格で引き切ってしまう。濡れた面では張るなら厚く。 これが分極化の発想だ。
乾いたレンジ優位ボード(A♠7♦2♣)→ 1/3 高頻度。プロテクション不要
濡れたボード(J♥T♥9♣) → 2/3〜ポット。ドローのエクイティ拒否
3betポットの低SPRダイナミック面 → 3/4〜ポット。コミット手前まで圧オーバーベット — 「相手がキャップしたとき」だけの武器
オーバーベット(1.5x)は、ポット以上の圧で相手のMDFを 1/(1+1.5) = 40% まで叩き落とす。相手は手札の 6 割を降りていい。
これが正当化されるのは、**相手のレンジに最強域が欠けている(キャップしている)**ときだけだ。例えば A♠7♦2♣ にターンで A が落ちてペアボード化した場面。フロップで広くコールした相手はトップトリップスが極端に少なく、君は Ax 全部とフルハウスを握る。このナッツ格差を換金する手段がオーバーベットだ。
逆に、相手がナッツを十分持てるボード(君と相手のレンジが対称な濡れた面など)でオーバーベットしても、相手は降りずに最強域でコールしてくるだけ。オーバーベットは「相手のレンジ構造」が許可したときにしか使えない。
相手別にサイズを動かす
GTO のサイズはあくまで「相手も GTO」前提の基準だ。実戦の相手は偏っている。基準からどう動かすかが、ハンターの腕の見せどころだ。
| 相手の傾向 | 基準サイズ | 調整 | 理由 |
|---|---|---|---|
| コーラー過多 | 1/3 高頻度 | そのまま or 頻度UP | 安く広く搾れる。降りないので薄バリューが通る |
| 過剰フォールド | 1/3 | 一部を check に回す | 打つと降りられ薄バリューが消える。誘ってから |
| ドローを追いすぎ | 2/3 | ポット〜オーバーベット | 悪い価格でも追う相手から最大徴収 |
| ナッツ以外降りる | 2/3 | サイズ据え置き+ブラフ減 | 大きく張るとブラフが全部通るが頻度は抑える |
注意すべきは、サイズを動かすほど自分のレンジも露見するということだ。コーラーに対し常に大きく張れば「こいつのベットはバリュー」と読まれる。相手を搾る調整は、自分のサイズ分布のバランスを完全には崩さない範囲で行う。 確実な傾向が見えるまでは基準に寄せておくのが安全だ。
このレッスンの要点
- サイズは手の強さではなく「レンジ × ボード × コール域設計」で決める
- 1/3 は乾いたレンジ優位面で広く高頻度(相手MDF 75%)、2/3 は濡れた面でドローのエクイティ拒否
- オーバーベットは相手がキャップしたとき限定の武器。手の強さでは解禁しない
- 相手の偏りで基準を動かすが、自分のサイズ分布が読まれない範囲に留める