M値とは
M値は、トーナメントで「自分のスタックにどれくらい余裕があるか」を測る数字です。プロプレイヤー兼作家の Dan Harrington(ダン・ハリントン) が著書で広めたことで有名になりました。
M = 自分のスタック ÷ 1周のコスト
1周のコスト = SB + BB + 1周あたりのアンティ合計
「1周」とは、ボタンがテーブルを1回まわることです。1周のあいだに、自分は SB を1回、BB を1回払います。アンティがあれば、その分も足します。
つまり M は、「今のブラインドとアンティのまま、何もせずに座っていたら、あと何周分のチップがあるか」 を表します。
「自分のBB数」と「有効スタック」は別物
スタックを測る単位には、Mのほかに BB数 があります。ここで混同しやすいのが次の2つです。
| 名前 | 計算 | 何に使うか |
|---|---|---|
| 自分のBB数 | 自分のスタック ÷ BB | 自分の余裕を見る。Mの仲間 |
| 有効スタック(BB) | 自分と相手の小さい方のスタック ÷ BB | ハンドごとの判断(オープン・プッシュ・コールの基準) |
たとえば自分が 40BB、相手が 12BB なら、そのハンドで実際に動くチップは最大 12BB 分です。この「小さい方」が有効スタックです。プッシュ/フォールドの表やレンジは、有効スタックを基準に作られています。
M と「自分のBB数」は、同じブラインド・アンティ条件なら、自分のスタックを基に計算します。相手のスタックはこの計算に使いません。ですから M は「今の局面の大まかな認識」に使い、ハンドごとの具体的な判断は有効スタック(BB)で行う、という役割分担を覚えておきましょう。
アンティの3方式で「1周のコスト」が変わる
現代のトーナメントでは、アンティの払い方が大会ごとに違います。M を計算するときは、どの方式かで「1周あたりのアンティ合計」の出し方が変わります。
| 方式 | 誰が払うか | 1周あたりのアンティ合計 |
|---|---|---|
| アンティなし | 誰も払わない | 0 |
| 各自アンティ(1人 a) | 全員が毎ハンド a を払う | a × 着席人数 N |
| BBアンティ(額 B) | BB の席の人が代表して B を払う | B(1周に1回だけ) |
BBアンティで間違えやすいのは、「B × 人数」としてしまうことです。BBアンティは、テーブル全体では毎ハンド B が出ていますが、自分が払うのは自分が BB のとき、つまり1周に1回だけです。Mは「自分が払うコスト」で割るので、足すのは B 1回分です。
計算例(スタック 20,000 / SB 500 / BB 1,000)
自分のBB数はどの方式でも 20,000 ÷ 1,000 = 20BB で同じです。しかし M は方式で変わります。
| 方式 | 1周のコスト | M |
|---|---|---|
| アンティなし | 500 + 1,000 + 0 = 1,500 | 20,000 ÷ 1,500 ≈ 13.3 |
| 各自アンティ 100・9人 | 500 + 1,000 + 100 × 9 = 2,400 | 20,000 ÷ 2,400 ≈ 8.3 |
| BBアンティ 1,000 | 500 + 1,000 + 1,000 = 2,500 | 20,000 ÷ 2,500 = 8.0 |
同じ 20BB でも、アンティがあると M は 13 から 8 まで下がります。これが「アンティがあると座っているだけで削られる」の正体です。M値・Mゾーン計算機で方式を切り替えると、この違いをすぐ確かめられます。
Mゾーン
Harrington は M の大きさで局面を色分けしました。当サイトの計算機は次の境界で判定します。境界は重ならないように決めてあり、たとえば M = 10 はイエロー、M = 9.9 はオレンジです。
| ゾーン | M | 大まかな認識 |
|---|---|---|
| グリーン | 20 以上 | 余裕あり。ポストフロップも含めて普通に戦える |
| イエロー | 10 以上 20 未満 | やや余裕減。受け身のコールを減らし、参加するならレイズで主導権を取る |
| オレンジ | 5 以上 10 未満 | オールインが主要な選択肢になってくる。通常のオープンも状況次第で残る |
| レッド | 1 以上 5 未満 | ほぼオールインかフォールド。ポジションと相手を見て早めに動く |
| デッド | 1 未満 | 強制ベットで急速にスタックが減る。それでもハンドと人数を見て判断する |
ゾーンは「選択肢の残り方」の目安であって、戦略表ではない
ここが一番大事なところです。ゾーンは「どの選択肢がまだ残っているか」を大まかに教えてくれるだけで、そのゾーンに入ったら自動的にこう打つ、という決まりではありません。
- オレンジに入っても「プッシュかフォールドしかない」わけではありません。有効スタックが 10BB 台前半なら通常のオープンが残る場面はいくらでもあります。
- デッドでも「どんな2枚でもオールイン」ではありません。次に BB を払ってもまだ少し残るなら、1ハンド待つ方がよいこともあります。
- 同じ M でも、後ろに何人残っているか(ポジション)、相手がコールしやすいか、賞金圏が近いか(ICM)で正解は変わります。
ゾーンは「そろそろ動く準備をしよう」と気づくための合図として使い、実際の判断は有効スタック・ポジション・相手・今後のブラインド・ICM を合わせて行ってください。プッシュ/フォールドの具体的な考え方は次のレッスンで扱います。
歴史的な「フルテーブル換算の Effective M」
Harrington の本や MIT の講義資料(15.S50「Poker Theory and Analytics」の第1回、下記リンク)では、テーブルの人数が少ないときに M を補正する考え方も紹介されています。
フルテーブル換算の Effective M = M × 着席人数 ÷ 10
10人テーブルを基準にして、人数が少ないほど「同じ M でもブラインドが早く回ってくる」ことを反映する補正です。たとえば 5人テーブルで M = 10 なら、換算値は 10 × 5 ÷ 10 = 5 となり、オレンジ相当として見る、という使い方でした。
ただし注意点が2つあります。
- この「Effective M」は、上で説明した 有効スタック(effective stack)とは名前が似ているだけで別の概念です。有効スタックは自分と相手の小さい方のスタックであり、人数の補正とは関係ありません。
- これは Power Number(PN)のしきい値とも別物です。PN についてはパワーナンバー表・比較計算機とトーナメント編:パワーナンバー表で扱います。
今の計算機は着席人数を「各自アンティの合計」を出すためだけに使い、この換算値は表示していません。歴史的な考え方として知っておけば十分です。
ミニクイズ
答えを見る前に、自分で計算してみてください。
Q1. スタック 15,000、SB 300、BB 600、アンティなし。M は?
1周のコスト = 300 + 600 = 900。M = 15,000 ÷ 900 ≈ 16.7。イエローです。自分のBB数は 25BB。
Q2. Q1 と同じ条件で、BBアンティ 600 が加わった。M は?
BBアンティは1周に1回だけ足します。1周のコスト = 300 + 600 + 600 = 1,500。M = 15,000 ÷ 1,500 = 10.0。ちょうど 10 なのでイエローです(10 未満ならオレンジ)。BB数は変わらず 25BB。
Q3. Q1 と同じ条件で、各自アンティ 75、8人テーブル。M は?
1周のアンティ合計 = 75 × 8 = 600。1周のコスト = 300 + 600 + 600 = 1,500。M = 10.0。Q2 と同じ結果になります。BBアンティは「各自アンティを1人に集めた」形なので、額をそろえると M も同じになります。
Q4. 自分 30BB、相手 8BB のヘッズアップの場面。有効スタックは? 自分の M を計算するとき相手のスタックは関係ある?
有効スタックは小さい方の 8BB。一方、自分の M は自分のスタックだけで決まるので、相手のスタックは関係ありません。「相手と戦うときの判断」は 8BB を基準にし、「自分の余裕」は M や自分のBB数で見ます。
まとめ
- M = 自分のスタック ÷(SB + BB + 1周あたりのアンティ合計)
- 各自アンティは「1人分 × 人数」、BBアンティは「その額を1回」だけ足す
- 「自分のBB数」は自分だけで決まり、「有効スタック」は相手との小さい方で決まる。ハンドごとの判断は有効スタック
- ゾーン(20 / 10 / 5 / 1)は「残っている選択肢」の目安。自動的にオールインという意味ではない
- M は今の条件を固定した周回数。ブラインドは上がるので、毎レベル計算し直す
関連リンク
- M値・Mゾーン計算機
- パワーナンバー表・比較計算機
- トーナメント編:パワーナンバー表
- MTTマスター編 M-04:M値とアンティ
- 参考資料(英語):MIT OpenCourseWare 15.S50 Poker Theory and Analytics, Lecture 1 — 講義スライド(PDF)
次のレッスンでは、オレンジ/レッドゾーンで重要になる「プッシュ/フォールド」の考え方を詳しく解説します。